2023/07/04 (TUE)

2023年度 立教大学映像身体学科学生研究会 スカラシップ審査結果

OBJECTIVE.

2023年度 立教大学映像身体学科学生研究会 スカラシップの審査結果、詳細、講評文は以下の通りです。

1、審査結果

【研究部門】 採択 3 件


  • 『満映映画におけるハルビンの空間表象』張 姝博

  • 『舞台稽古・上演の場において引き出される知覚を分析するー潜在的なものへの遡行〜その制作実践を通じて〜』清水ひなた

  • 『独我論的〈分かりあえなさ〉を融解させる連続テレビドラマの〈連続性〉をめぐって』菅藤 絢乃

【制作部門】 採択 2 件


  • 『脱走』寺岡 慎一郎

  • 『Möbius band(仮題)』岩田 奈津季(奨励採択)

2、審査詳細

【研究部門】

■審査員
横山太郎、大山載吉、宮本裕子

◆一次審査
3件の応募があり、3件が二次審査に進みました。

◆二次審査
3件を審査した結果、3件が採択されました。

【制作部門】

■審査員
審査員:篠崎誠、砂連尾理、樋本淳、山田達也

◆一次審査
4件の応募があり、3件が二次審査に進みました。

◆二次審査
3件を審査した結果、2件が採択となりました。

3、講評

各審査員からの講評は以下の通りです。

【研究部門】

研究部門審査員一同
今年度スカラシップ(研究部門)に申請された3件の研究計画につき、書類審査と面接審査をおこなった。いずれの計画も、研究計画に学術的意義が認められること、実施計画と予算の関係が明確であることを審査員一同で確認し、全件を採択した。

【制作部門】

砂連尾理
【寺岡慎一郎さんの計画について】
寺岡さんを推した理由は、提出された映像作品のシーン全てが観るものを惹きつけていくだけのクオリティーに達していたからです。活劇を撮りたいという寺岡さんは登場人物へのアクション演出だけでなく、風で揺れるカーテンや電車の手すりの揺れなど、その場で起こっている様々な動きに加えCG効果なども使用しながら、体のアクションだけでなく、心理描写を巧みに織り交ぜながらの映像描写、そのバランス感覚に彼の映像センスを感じました。また、提出された映像がサイコサスペンスでありながらも、映し出される世界が緊迫感や登場人物の不安感の描写だけでなく、ユーモラスで時にこれはコメディーなのかと思わせる馬鹿馬鹿しさがとてもユニークで、彼の映像世界の奥行きの広さを感じさせます。今回のスカラシップで更なる不可思議な知覚体験が出来る作品が生まれることを期待しています。

【岩田奈津季さんの計画について】
岩田さんの提出された作品は、深層心理を描いたシュールな作風で、舞踏や、その舞踏から影響を受けたコンテンポラリーダンスと比べポップで、実験精神に溢れたユニークな作品であることを先ず評価しました。また、社会の様々な問題に対する「NO」を、ダンスを通して突きつけていこうとする面接時の彼女の言葉、意志には新たなダンス表現を生み出してくれるのではという期待を抱かされました。以上の二点から、私は岩田さんを今回のスカラシップ選出に推すこととしました。
ただ、ここは期待を込めて敢えて厳しい言葉を投げ掛けますが、現時点ではその創作意欲を支えるだけの知識、研究がまだまだ不十分です。岩田さんには、今回のスカラシップを機に研究にもじっくり時間をかけ、想いだけで作品制作を消費することなく思考と実践を繰り返し往復しながら作品制作に取り組んでいただきたいなと思います。
篠崎誠
今年度スカラシップ助成が決定した寺岡さんの企画に関しては、審査に当たった4名の教員全員一致で決定しました。企画内容も具体的かつユニークで、「引きこもり」の「引き剥がし」、そこからの「脱出」という今日的なテーマを描くにあたり、観念的なテーマ主義に陥らない工夫、アイデアが企画書に書かれていました。面接においても、同テーマに対する具体的なアプローチ、方法論が明快でした。さらに審査員全員が一致して認めたのは、企画書と共に提出された複数の過去作それぞれの映像の力でした。毎年書きますがスカラシップは、これが非常に重要です。映画、映像作品の場合、活字ではいくらでも立派なことが言えます。しかし、肝心なことは、提出された企画を作り手が完成させることのできる力量をもっているかどうかです。企画書の肝をしっかり掴み、映像化できるかは、過去の映像作品から見極めるしかありません。その意味で、寺岡さんは画そのものの力で語る手腕が充分にあると判断しました。映画を「社会派」「娯楽」と二分することは無意味であると私自身は考えますが、優れた映画がそうであるように、この二つが交差する地点からこれまで見たことがない映画が生まれることを期待しています。
一方の奨励作に選ばれた岩田さんの企画に関しては、あくまでも「奨励」であると考えます。岩田さんの企画意図、思いの強さはわかりますが、企画書としての詰めが正直非常に甘いです。誰とどこで、どういう方向性でやるかだけでは企画書としては不充分で、その思いの強さを、第三者も説得できるように言葉にし、内容と形式をもっと具体的に提案してほしかったです。それでも最終的に審査員全員一致で奨励賞を与えようと結論にいたったのは、岩田さんが今年映身展で行ったパフォーマンスが面白かったということにつきます。今回の企画も具体的な形にしてもらいたいと思います。今後、舞台系の企画を出される方は、映像作品同様に、企画意図や方法論だけではなく、具体的なモチーフ、具体的な場面設定などをあらかじめ決めてから応募してください。スカラシップを受賞してから具体的なことを考えるのでは遅すぎるということを明記しておきます。
樋本淳
審査の基準としたのは二つのポイントです。①魅力ある企画となっているか? ②応募者にその企画を実現する力が備わっているか?
アメリカの著名な撮影監督ラズロ・コヴァックスは次のように語っています。
「文字を書き連ねている一枚の紙を撮ってもしようがない。それは人生じゃない。ドラマじゃないからだ。被写体に命を吹き込まないといけない。目で見てわかるものにしないといけない」。
寺岡さんの企画は魅力的であるとともに、細部まで非常に良く書かれていました。登場人物の設定や物語も明確で、映像化するに当たっての作家としての挑戦の部分も感じることが出来ました。さらに、提出された過去の作品の抜粋から、映像に対する知識と確かな技量を備えていることもわかりました。この時点である程度の水準は担保されたといえます。あとはそこからどこまでレベルアップできるかという期待感であり、スカラシップ作品として妥当であると判断しました。
一方、岩田さんの企画は非常に面白い試みでありながら、今ひとつ企画として踏み込めていない印象もありました。しかし、提出された過去の作品には人を惹きつける力があり、「この人の作品をさらに観てみたい」と思いました。スカラシップ作品として制作することで自らの殻を破り、魅力的で挑戦的な作品を創り上げてほしいと思っています。
山田達也
【 制作タイトル『脱走』寺岡慎一郎 】について
この企画は寺岡さんの“リアルな脱獄映画を作りたい”という思い、だが単なる娯楽としての活劇ではなく現実社会で実際に起こっている「ひきこもり」と、それに付け込む「引き出し屋」をモチーフに、プロットの段階ではありますが「企画意図とあらすじ」に興味をひかれました。また、提出された成果物の作品を観て映画作りに妥協なく真摯に向き合っていると判断出来る点が私の選考の決め手となりました。この作品が社会のなかの不条理からの『脱出』を痛快に描くものになってほしいと思います。
今後のシナリオ作成の作業では「引き出し屋」については、より綿密な取材を元に現実に即した実態とそこからの「脱走」を活劇としてどのように描くかがポイントになっていくと思います。ラストシーンを見終わった後に「何を思うか」期待しています。
シナリオとそのブラッシュアップは勿論ですが、シーンによってはドキュメンタリー的な撮影手法も取り入れたらどうでしょうか。また、予算との兼ね合いではありますが「完成尺35分」で描き切れるか、キャストの人数、軸となるロケセット「全国自立自助学習センター」などを考えると、撮影期間についても1週間ほどの想定ですが再考が必要かと思います。
以上からプロデューサーもしくはその役割を委ねられるスタッフの必要性を感じます。

【 制作タイトル『Möbius band(仮題)』岩田奈津季 】について
まず今回のスカラシップに「身体系制作」の応募があったことを大変うれしく思います。
提出された「制作の目的および内容」を読み、音楽と身体表現の関係性を試行しながら“現代の舞台のあり方を模索する“という点で実験的な企画ではありますが興味をもちました。企画段階での内容は大枠としては理解出来ましたが、その具体性に多少の迷いもあり実際にどのように制作していくのかやや不安な点もありましたが、岩田さん本人との面談で綿密に書かれたノートを見ながらの説明に、制作への真剣さや強い思いを感じました。また成果物として提出された昨年度の映身展のパフォーマンス映像はインパクトがあり、今回のスカラシップでも期待できる作品となることを確信し選考の判断としました。
公演での作品発表になりますが、公演までの制作過程での「ダンサー、ギタリスト、ピアニストの関係性の変化とそこからどのように制作が進み、どのような作品になっていくのか、なったのか」を自身として検証し、ぜひ記録として残していただきたいと思います。貴重な制作経験として学科全体に共有されることはとても有益だと考えます。

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