学部案内連動企画『ダンスを拡張する。』

2020/05/08

OVERVIEW

「ダンス」と聞いたときに、皆さんはまず何を思い浮かべるでしょうか。
ジャズダンスやクラシックバレエのような、身体と技術を鍛え上げた人々が特別な場所で演じるものだけがダンスなのでしょうか。
実際の「ダンス」は、老人やしょうがい者の新たなケアを創造し、言葉や映像とは異なった形で震災を継承することだってできる、あらゆる方面に拡張する可能性を秘めています。

本企画では、映像身体学科の砂連尾理特任教授に近年の活動を紹介いただきながら、「ダンス」とは何か、そして映像身体学科で学ぶ「身体」とは何かを探っていきたいと思います。

しょうがい者や老人のダンス

「劇団ティクバ+循環プロジェクト」 写真:草本利枝

ダンスというと、ヒッピホップやバレエのように音に合わせてリズミカルに且つ高度なテクニックを用いて踊られる踊りを想起される人が多いと思います。私が取り組むダンスは、そのような舞台芸術を主とするダンスに特化するというよりは、むしろダンスの意味を拡張してその可能性を探るというものです。

特にここ数年、取り組んでいるのがしょうがい者や認知症の方とのダンスです。ただ、ここでは福祉の文脈としてケアの側面からダンスを考えるというよりは、彼らと関わることから見えてきた身体のありよう、またダンスの新たな可能性について研究しています。その研究は、ダンス関係者のみならず哲学者、ロボット工学者、インタラクティブメディア研究者、当事者研究者など、文脈を横断した様々な研究者と協力して行なっています。

日独の健常者としょうがい者が一緒になって作った作品「Theater Thikwa+Junkan Project」(ドラマトゥルク:中島奈那子)はしょうがいと健常、福祉とアート、そして日本とドイツといった異なる文脈を超えて対話を生み出し、その差異に目を凝らしながら作品にしていきました。その作品は、2012年にベルリンで開催された国際ダンスシンポジウム「The Aging Body in Dance」および同年に開催された国際舞台芸術祭である「KYOTO EXPERIMENT 2012」に招聘されるなど国際的に高い評価を受けました。

京都・舞鶴の高齢者施設に暮らす老人と共に作った作品「とつとつダンス」は、2009年に舞鶴で上演されました。舞台終了後も、入居者や施設職員だけでなく舞台創作時に関わった哲学者や文化人類学者らと協働してワークショップや哲学カフェを展開しました。そして私が認知症の方とのワークで発した言葉“何度、行っても…、覚えて、もらえない(略)ゾクッとするんですよ。毎回、まっさらで向き合えるってことに”は哲学者の鷲田清一氏が連載している朝日新聞の「折々のことば」に取り上げられ、また『老人ホームで生まれた<とつとつダンス>—ダンスのような、介護のような』(晶文社)という本にまとめられるなど、ダンスからスタートしたその活動は舞台芸術という領域を超え多様な広がりみせていきます。

継承としてのダンス

「猿とモルターレ」 写真:松見拓也

東日本大震災後、避難所生活を経験した人々から、震災で体験した話を伺う機会を何度か持ったのですが、彼らの語る言葉とその身体に圧倒され、それをもとに創作したのが「猿とモルターレ」という作品です。そのタイトルはイタリア語のsalto moratleを日本語にもじってユーモラスに変換しているのですが、元は「命懸けの跳躍」を意味します。

この作品は、震災を経験したことのない人々が、非常に困難な状況を経験した他者の記憶にどのように触れ、それをいかに想像し、語り伝えていくかを、映像作家、美術家等とともにダンスを通して探ったものです。

社会に開かれていくメディアとしてのダンス

私のダンスはもはや既存のダンスコードで語られるものではなく、しょうがい、老い、震災といった異なるコンテクストとの出会いや対話の中に身を投じ、揺り動かされることから生まれてきています。社会の出来事に応答する、今ここだけの身体でなく、不在(死者を含む)の者たちとの対話へも開かれた身体を模索していくことに、ダンスの可能性はあるのではないでしょうか。

技術的に鍛え上げられた者だけが所有する特権的な身体を目指すことがダンスでは決してありません。舞台だけではなくさまざまなメディアを横断しながら、今日におけるダンスとは何かを、ダンスの未来とその可能性を、この立教の映像身体学科を志望する皆さんとも一緒に考えていきたいと思っています。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。

プロフィール

PROFILE

砂連尾 理 Jareo Osamu

立教大学現代心理学部映像身体学科 特任教授
振付家・ダンサー

1991年、寺田みさことダンスユニットを結成。近年はソロ活動を中心に京都・舞鶴の高齢者との「とつとつダンス」、宮城・閖上(ゆりあげ)の避難所生活者の取材が契機となった「猿とモルターレ」、病、しょうがいなどを〈生きる過程にある変容〉と捉え、対話を通してダンスへと変換する「変身?ええ、私です。又あなたです。」、また映画「不気味なものの肌に触れる」(濱口竜介監督)の出演、振付など。著書に「老人ホームで生まれた〈とつとつダンス〉—ダンスのような、介護のような—」(晶文社)。